小説:『生活支援アプリケーション「オレのヨメ」』(2)

2.
 その日の予定はもちろん、健康管理や流行、ニュースなども「オレのヨメ」は管理する。ユーザー一人ひとりに適した情報を公開し、時にそれは健全な精神状態を維持させることにも役立っている。健全さが常に蹂躙され維持することが不可能であった混沌時代から、ようやく人並みの生活を送れるようになったのは彼女のおかげではある。
 では、私は彼女の何を恐れているのかというと、人の習慣に侵食していることで、且つ誰もそれを疑問視していないことだ。
 その人は、目覚めてすぐに「彼女」を呼び出した。現代人には珍しくない習慣的な流れであるが、個人的には、朝一番にすべきことはこれではない。たまたま休日であったから構わないが、アプリケーションよりも床に立ち上がるのが先ではないだろうか。
 起動後、すぐに「彼女」が映し出された。人間の様な親しみのある挨拶をした後に、その日の予定や健康状態などを一方的にユーザーに伝えていく。こういった流れだけを見れば、あくまで「彼女」でなく「システム」であると感じられるのだが、そう思える者はもういないかもしれない。その人も、「彼女」にあれよこれよと言いくるめられて、特に用事が無いなら散歩しよう、ということになった。
 目的地は、当然だか「彼女」が決めた。ルートを見ると、正直、これは散歩といえる程度のものだと思えない。異文化を臨める街中を歩かせ、健康を損なわない昼食を取らせ、ゴンドラに揺られて展望台を目指す。生活支援を第一に考えているにしては、懐に厳しい。確かに、日常生活を維持するにはそこそこ奮発する必要があるだろうが、国民の出費が年々増加する一方である中では、こちらの方が不健全ではないだろうか。

(続く)

作・奥部 裕