アニメーション原作者として:「今の業界の未来を考える」

 このブログのタイトルでもある「アニメーション原作者」についてですが、私が知る限りこの様な言葉や肩書きは存在しません。おそらくは、私の造語です。なので、今回はこの言葉がどの様な意味なのかを説明します。

 

〇「アニメーション原作者」の意味

 この言葉は、漫画原作者の様な特定の表現媒体を扱う原作者という意味で作りました。すなわち、アニメーション原作者とはアニメーションを原作とした作家ということを指します。

 創作物一つにしても、媒体によって表現の仕方や許容範囲は違ってきます。アニメーションの様に視覚的・聴覚的な魅力を持つ媒体は公序良俗に反する表現を規制しますが、小説の様な消費者の想像力に依存する表現はそれが弱くなります。実際に、文章表現ではしばしば殺人や強姦といった非道徳的な出来事が起こっておりますが、これを、特に進行中の場面であれば、映像として表現することは許されません。

 漫画の様に静止画と文章による表現の場合は、映像化として違和感のあるものになります。特に、ある事柄に対して説明している場面だと、それが終わるまでの間は世界は静止した状態になります。細かい部分ではありますが、映像とはリアルタイムで事象が進んでいることでもあるので、そういう意味では大きな違いだといえます。

 アニメーションは映像表現ですので、台詞や事象に対する反応はタイムリーに起きています。アニメーションを原作として創作するということは、映像作品であることを前提とした創作活動を行い、より映像としての価値に沿ったアニメーションを作成することが出来るようになる考え方です。

 

〇オリジナルアニメーションと作家性

 アニメーションが1年をかけて放送する時代から、季節ごとに放送する時代になって久しくなり、最近はオリジナルアニメーションを制作することも増えてきました。ただ、オリジナルアニメーションの質については、魅力的な反面、オリジナリティがあまり感じられないことがあります。特に、テレビ放送をしている作品にはそれが顕著に表れています。具体的には、有名な作品の設定を使い回しているという点が目立っています。 

 創作活動をしていると、作品の設定は既に出し尽くしているということを度々耳にしますが、知名度の高い作品と類似していると新鮮さを感じ難くなり、直感的に有名作との差別化が出来なくなります。

 例えば、「ウイルス汚染された化物に噛まれた人間は同じ化物になる」という設定は、CAPCOMの『BIOHAZARD』とほとんど同じです。「自分の内部にいるもう一つの存在を武器とする」という物なら、荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』やATLUSの『ペルソナ』と似た物になります。

 オリジナルアニメーションには話題性を戦略として使用し難いという欠点があり、確実に利益を得たいのならば、話題となっている作風に似せて作るのは正しいことです。しかし、逆の視点から考えるとアニメーション全体が作家性の薄い物に仕上がっても問題が無いということを、問題点として改めていないとも考えられます

 クリエーターの榊正宗さんは、オリジナルアニメーションに関して「企画の期間が短く分業が進みすぎたのが弊害になって、作家性の強い作品が作りにくくなってる」ことが根本にあるとしていて、その結果「誰に主導権があるのか分からない」状態や、利益を得るためにマーケティングばかりに予算を使う事態になっているといいます(「Twitter『榊正宗@megamarsun』(2019年1月30日)https://twitter.com/megamarsun」より要約)。

 確かに、利益を得ることはどの様なことにしても優先順位が高くなりますが、ストーリー性がアニメーションという商品に無くてはならない要素であるのは事実ですし、消費者の期待値に依存し過ぎると不評を受けることにもなります。オリジナリティを大事にして、期待値をマーケティングではなくストーリーから得られるようになれば、制作陣と消費者の間により価値の高いwin-winが生まれることも期待できるでしょう。

 

〇最後に

 オリジナルアニメーションが増え続けている中で、アニメーション業界にいながら作家として活動できる方も増えてきています。新しい作風を消費者が求めていることもあり、今後この業界には専属の作家を迎え入れることが重要視されてくると思っています。

 アニメーションが創作活動の一つとして数えられるくらいに、現代のツールは充実しています。自主制作アニメーションもより手軽に作られる中でストーリーを組み立てる人材が現れれば、よりクオリティーの高いアニメーションが誕生することも期待できます。

 作家性が強いアニメーションが業界の未来を支える一つとなり得るのなら、より創作物としての価値を利益に変える方針にしていくのは、有力な結果をもたらすことになると思います。